ボーンチャイナの誕生物語 - 東洋の磁器に魅了されたヨーロッパの挑戦
骨中国...? ”ボーンチャイナ” とは一体何なのか?
ボーンチャイナは、18世紀後半にイギリスで発明された中国磁器の白さや美しさを追求した高級陶磁器です。牛の骨灰(ボーンアッシュ)を含む特殊な原料を使用し、高温で焼成することで作られます。この技術により、ボーンチャイナは他の陶磁器に比べて強度が高く、透光性があり、非常に滑らかな質感が特徴です。
ボーンチャイナ誕生の歴史
ボーンチャイナがどのようにして誕生したのかを理解するためには、まず陶磁器の種類について知る必要があります。
焼き物の世界 ~種類について
焼き物には大きく分けると「土もの」と「石もの」があります。
「土もの」の中にもいくつか種類があり以下のように大別されます。
- 土器(clayware)
- 炻器(stoneware)
- 陶器(eathenware)に大別されます。
また、「石もの」は磁器(porcelain/china)とされています。
💡 ちなみに陶磁器(ceramics)という言葉は陶器と磁器をまとめた(土ものと石ものをまとめた)ものです
それぞれの特徴を簡単に紹介します。
土器‐どき(clayware)
土気色の世界最古のやきもののこと。いわゆる素焼きの状態の器で、日本では縄文土器や弥生土器が有名です。
炻器-せっき(stoneware)
陶器と磁器の中間のやきもので、半磁器・焼締めとも言います。よく知られているものでいうと、代表例はウェッジウッドのジャスパーウェアや備前焼‐びぜんやき 、信楽焼‐しがらきやき などです。
陶器‐とうき(eathenware)
世界的に広く使用される焼き物。釉薬を使用し二度焼きされます。マヨルカ陶器やマジョリカ、ポーリッシュ・ポタリーが有名です。
磁器‐じき(porcelain/china)
焼き上げる温度や材料によって硬質磁器、軟質磁器、骨灰磁器に分けられます。指ではじくと高い音がすることが特徴で、陶器と見分けるときは光の透け具合で判断したりします。中国の白磁器やドイツのマイセンがこれに当たり、今回ご紹介するボーンチャイナもこれに属しています。
ボーンチャイナを紐解く歴史
13世紀 - 冒険家マルコポーロが持ち込んだ異国の食器
ヨーロッパでにおける食器文化の大きなターニングポイントは、13世紀に商人で冒険家のマルコポーロが中国磁器を持ち帰ったことです。彼が持ち帰った白くて艶やかな磁器は、「porecellana - タカラガイの鉢や皿」と評され、現代で磁器の意味として使われる「porcelain(ポーセリン)」の語源にもなっています。
マルコポーロによってもたらされた中国磁器により、ヨーロッパの人々は、磁器の白さや美しさに魅了され、様々な窯元で白い焼き物を追求する試行錯誤の歴史が始まりました。
16世紀おわり - 磁器の元祖「メディチ磁器」の発明
メディチ磁器はイタリア発祥で、陶器を作る粘土の中にガラスを混ぜて焼いたものです。正確に言うと磁器ではないですが、半透明な透光性を再現しようとしたヨーロッパ産磁器への足掛かりとなったとされる作品です。しかし、この製法は生産効率が上がらず、徐々に衰退していきました。
17世紀はじめ - 磁器っぽさのある陶器「デルフト陶器」の誕生
15世紀末コロンブスがアメリカ大陸を発見し、大航海時代が幕を開け、海を越えた貿易が始まります。これにより17世紀ごろから東洋の磁器に魅せられた王侯貴族がどんどん増えていました。
それに伴い外見が白い磁器っぽい陶器の開発が進みます。この時にできたのが、錫を使った釉薬を用いて作られた錫釉(すずゆう)陶器です。
また、17世紀はじめからヨーロッパ各国で東アジアのものをヨーロッパに持ち込もうと各国がインド以東のアジア地域との貿易を特権的に行う貿易会社「東インド会社」を設立します。その中でも力を握っていたオランダの東インド会社が保有していたのが「デルフト陶器」です。
オランダのデルフトで作られた錫釉陶器で、東洋っぽい絵柄とブルー & ホワイトのデザインにより注目され人気を博していきました。
18世紀はじめ - ついにヨーロッパで磁器の開発が成功し「マイセン」が生まれる
18世紀はじめ、白磁器の開発に各国が邁進する中、磁器製造を成功させたのがザクセン王国(ドイツ)のアウグスト王です。ドイツのマイセンに工房を設立し、その設立された窯がヨーロッパ磁器最古の窯と称される「マイセン磁器製作所」です。
他国も磁器製造に力を入れますが、マイセンで作られた硬質磁器の艶やかに輝く純白を再現することがなかなか出来ませんでした。当時は金や宝石にも匹敵する宝物とされていたことから「白い金」と評され、製法を盗むため他国がスパイを送り込むほどだったと言われています。
18世紀 - 「ボーンチャイナ」の発明と製品化
ドイツでの磁器製作の成功を横目に、イギリスでも磁器の開発は行われていました。しかし、イギリスではマイセンと同じ硬質磁器製作に必要な「カオリンナイト」を含む土が取れませんでした。
そこで、ほかの方法で東洋の白磁器の白さを表現できないかと模索している中で発見された方法が、カオリンナイトの代わりに動物の骨を灰にしたものを混ぜる「骨灰磁器」です。この手法は18世紀半ばには見つかっていたものの、 1799 年にスポード社がこの技術を安定させ、製品化に成功したされています。
※ 完成した年は諸説あり
「ボーンチャイナ」の特性
ボーンチャイナは成型や焼成が難しかったと言われており、誕生から安定的な生産に時間がかかったのはこのためです。
骨灰を含ませることにより粘土の可塑性が低く、焼成の段階でも通常の粘土よりも伸縮率が大きいため、焼成の難易度が格段に高かったのです。
そもそも「ボーンチャイナ」とは、ボーン【骨】が含まれてるチャイナ【磁器】という意味です。チャイナ=磁器?と思う方もいるかと思いますが、13世紀にマルコポーロがもたらした中国磁器への憧れから生まれたと考えれば、磁器という意味のチャイナに納得がいくのではないでしょうか?
また、「ボーンチャイナ」には各国でそれぞれ含まれている骨灰(リン酸カルシウム)の量に規定があり、25~35%と様々です。ちなみに日本の JIS 規格では30%以上とされています。
こうして発明されたボーンチャイナは、優しい白さと光の透ける透光性、そして通常の白磁器のおよそ2倍の強度がある素晴らしい製品となりました。
より優れた 1 品を。ファインボーンチャイナへの道
ボーンチャイナと同じような言葉、ファインボーンチャイナはご存知ですか?
ファインボーンチャイナは、ボーンチャイナの中でも特に高品質な製品を指します。通常のボーンチャイナよりもさらに細かい原料を使用し、骨灰の配合量が多くなり、製造工程でもより厳密な品質管理が行われます。その結果、ファインボーンチャイナはより滑らかで透明感があり、繊細なデザインが可能となります。
このファインボーンチャイナの製品化に成功したのもボーンチャイナを製品化したスポード社だと言われています。
ボーンチャイナとファインボーンチャイナの違いについて
ファインボーンチャイナ | ボーンチャイナ | |
原料 |
より細かい骨灰と高品質な原料を使用 牛の骨灰を50%以上含む ※ 60%以上を規定としているという説もあり |
牛の骨灰を30%以上含む原料を使用 ※ 国により規格が異なる |
製造工程 | ボーンチャイナより厳密な品質管理と細かい調整が行われる | 一般的な陶磁器の製造工程に加え、特殊な高温焼成が行われる |
特性 | ボーンチャイナより透明感があり、非常に滑らかで繊細なデザイン | 強度が高く、透光性と滑らかな質感が特徴 |
さいごに
ボーンチャイナとファインボーンチャイナは、その美しさと品質で世界中の陶磁器愛好者に愛されています。特に日本においては、ノリタケをはじめとするメーカーが高品質な製品を製造し、その伝統と技術を次世代に継承しています。
アンティークやビンテージに興味がある方にとって、これらの陶磁器は収集価値が高く、日常使いでも特別な時間を提供してくれるでしょう。